今月初めにサンフランシスコで開催されたBox Content+AI Summitにおいて、BoxのCEOであるアーロン・レヴィ(Aaron Levie)が、Google Cloudのビジネスアプリケーション担当副社長兼ゼネラルマネージャーであるラオ・スラパネニ(Rao Surapaneni)氏と対談し、企業がAIファーストの業務プロセスへの移行をどのように進めていくべきかについて意見を交わしました。その対談内容をわかりやすくまとめました。
主なポイント
- AIの導入はチャットの域を超えつつある: AIはすでにナレッジ統合や個人の生産性向上に広く活用されており、企業はより具体的なタスクやワークフローを処理できるAIエージェントの活用を検討し始めています。
- 企業はワークフローを単に自動化するだけでなく、根本的に見直す必要がある: ラオ氏は、企業はAIによって既存の業務プロセスを改善できると考えているが、将来的には多くの業務プロセスをAIネイティブな世界に合わせて再設計する必要が出てくるだろうと述べています。
- ガバナンスと連携が大きな課題: セキュアなアクセス制御、システム間の相互運用性、そして複数のAIエージェントのより優れたオーケストレーションが、企業におけるAI導入にとって不可欠となるでしょう。
アーロン
ラオさん、お越しいただきありがとうございます。あなたは、AIエージェントを活用した企業変革やワークフローの自動化に関する議論の中心にいらっしゃいますね。現状はいかがですか? 今は何に取り組んでいらっしゃいますか?
ラオ
ありがとうございます、アーロンさん。こちらこそ、お招きいただき光栄です。
私は、テクノロジーの進化に伴い、製品化を支援することと、将来を見据えることの両方に注力しています。マルチエージェントは今後どのように発展していくのか? これらのソリューションを実環境でより簡単かつセキュアに導入するにはどうすればいいのか?という点です。
アーロン
AIエージェントと企業における導入状況について、現状どうお考えですか? 私たちはシリコンバレーの中心にいますが、 国全体、そして世界規模で見ると、チャットから完全なAIエージェントへの移行において、私たちはどの段階にいるのでしょうか?
ナレッジの統合や人間の支援の分野では、AIはすでに広く普及しています。チャットボットによるエクスペリエンスであれ、高度な調査であれ、今日のAIモデルが処理、推論できるコンテンツの量は膨大です。次に重要なのは、エクスペリエンスをパッケージ化して、それぞれのユースケースに最適な形で提供する方法を見つけることです。
そして、AIエージェントソリューションが登場します。AIエージェントがより多くのことを自律的に実行できるようになります。マルチエージェントのシナリオでは、各AIエージェントが特定のタスクを驚くほど高い精度で実行できるという初期的な成功の兆しが見られますが、これは非常に限定的で決定論的な領域に限られています。
次の課題は、それらをオーケストレーションしつつ、信頼性を確保することです。その兆候も現れ始めていますが、 より多くの自律的な機能はまだ進化の途上です。
アーロン
あなたは今、今後5年から10年で起こるであろう大きな変化を挙げました。つまり、限定的で決定論的なアクションから、AIエージェントが長期間稼働したり、多数のサブエージェントを抱えたりする状況への移行についてです。融資プロセス、顧客オンボーディングワークフロー、あるいは人事プロセス全体を、高い品質レベルで実行できるようにするにはどうすればいいでしょうか? 企業は何をきちんと理解する必要があるのでしょうか? 必要なAIモデルはすでに存在しているのでしょうか、それともまだ開発途上なのでしょうか?
ラオ
企業にとって、AIやそのほかの新しいテクノロジーの導入は、従業員、業務プロセス、製品といったあらゆる側面を横断するものです。私たちは、このテクノロジーの使い方と、テクノロジーと製品を改善するためのフィードバックの提供方法について、従業員を育成する必要があります。
企業にとって、AIやそのほかの新しいテクノロジーの導入は、従業員、業務プロセス、製品といったあらゆる側面を横断するものです。
Google Cloud ビジネスアプリケーション担当副社長兼ゼネラルマネージャー
ラオ・スラパネニ(Rao Surapaneni)
既存の業務プロセスは数多く存在します。既存の業務プロセスにAIを導入することで、20%~30%の改善が見込めます。しかし、現状のAIモデルと将来のAIモデルを見据えることも重要です。
もしこの業務プロセスを再設計するとしたら、そもそも必要なのか? AIネイティブな世界に向けて、自分のやっていることを再考できるのか? AIエージェントに委任することはできるのか?そして、それを実現する上での障害は何か?ということを。
アーロン
ちょっと意地悪な質問をさせてください。10年後、私たちはここで事後検証をしているとしましょう…
ラオ
AIの世界で10年ですか?
アーロン
そうです。つまり、400年分のAIモデル開発の進歩ですね。AIエージェントのメリットを最大限に引き出すために、ワークフローの何パーセントがゼロから再構築され、何パーセントが人間が担当していたままの状態が残るでしょうか?
ラオ
企業においては、AIの機能を活用するために、少なくとも60%~70%の業務プロセスが新たに必要になると予想しています。繰り返しますが、10年というのは非常に長い時間です。
アーロン
確かに。この件に関して、あなたに確約を求めることはできませんが、 誰もが考えている興味深い質問です。理想的なソリューションとは、ワークフローに組み込むだけで全てを自動化してくれる、非常にスマートでインテリジェントなAIだと私たちは考えてきました。しかし、実際には様々な制約があります。コンテキストウィンドウの制約、アクセス制御の制約、プランニングの制約などです。業務プロセスの再構築について、どのように考えるべきでしょうか? どのように始めればよいのでしょうか?
ラオ
多くのお客様と話をしてきましたが、アプローチは大きく分けて2つあると考えています。1つは、すべての従業員にAIを導入し、各自が業務を効率的に進める方法を模索していくというものです。メールの要約やよりよいコンテンツの作成など、AIを活用してAIエージェントの構築能力や個人の生産性を向上させることは、すでに現実のものとなっています。
もう一方の極端な例が、ワークフローについて深く考えることです。従業員のオンボーディングを例に挙げてましょう。これはエンドツーエンドのフローです。新入社員はノートパソコンを必要としますが、ノートパソコンの調達は別のシステムで処理され、専用のAIエージェントが存在します。新入社員が営業担当者であれば、初日から担当地域、顧客アカウント、プレイブックなどの必要な情報をすべて提供する必要があります。そのため、専門的な業務を行うこれらのAIエージェントすべてを連携させる必要があるのです。
アーロン
これは、多くのAIエージェントワークフローにおけるジレンマの1つです。AIエージェントへのアクセス権限を付与する際に、フローのどこかで誤って情報を漏洩させてしまうという、厳しい現実です。AIエージェントのガバナンスとセキュリティについて、どのようにお考えですか?
ラオ
AIエージェントのガバナンスとデータ管理は、真のスピードアップを実現するための鍵だと考えています。企業のポリシーにはそれなりの理由があります。ですから、これらのポリシーが本当にこのテクノロジーに必要なものなのか、 どのようなトレードオフがあるのかを真剣に検討する必要があります。結局のところ、価値と利便性、そしてリスクとリターンのバランスが重要になります。適切なガバナンスポリシーが必要ですが、AIエージェントへのアクセスを許可することで多くの価値が生まれます。これはケースバイケースで評価する必要があります。
AIエージェントのガバナンスとデータ管理は、真のスピードアップを実現するための鍵です。
Google Cloud ビジネスアプリケーション担当副社長兼ゼネラルマネージャー
ラオ・スラパネニ(Rao Surapaneni)
アーロン
AIエージェントがユーザーの権限と特権を引き継ぐワークフローと、AIエージェント自身のIDとアクセス権限を必要とするワークフローについて、明確な見解はお持ちですか?
ラオ
それは、企業全体への展開において検討している点です。現在は、既存の企業ガバナンスルールを適用しています。AIエージェントが私の代わりに何かを実行する場合は、私の認証と認可を引き継ぎます。既存のポリシーとモデルが遵守されているため、これはうまく機能しています。
しかし、私よりも多くのデータにアクセスできる人事担当者に何かを依頼する場合を考えてみましょう。AIエージェントはタスクを実行して、すべての生データを共有することなく、概要を私に提供してくれます。このような場合は、AIエージェントに高い権限を付与できる必要があります。
これらが、私たちが現在取り組んでいる、暗黙的かつ潜在的な権限とポリシーに関する判断の仕組みです。
アーロン
少し技術的な話になりますが、たとえば、従業員の給与をAIエージェントに問い合わせる場合、それが大きな課題になると思います。そのAIエージェントは、私がその質問をする権限があるかどうかを決定論的に判断できるのでしょうか? ソーシャルエンジニアリングによって、本来入手できない情報を引き出すことができてしまうのでしょうか? システムとAIエージェントの間に、オーケストレーションレイヤやコントロールパネルが存在することを想定していますでしょうか?
ラオ
はい。AIエージェントの世界では、アクセス制御とコンテキスト評価はプロセスのあらゆる段階で行われる必要があります。先ほどの例で言えば、企業にログインすれば、私は私自身であり、すべての認証と権限はそのまま維持されます。しかし、AIエージェントの世界では、すべてのツール呼び出し、すべてのコンテンツへのアクセスは、その時点での状況というコンテキストで評価される必要があります。一度限りの静的なログインではなく、各段階での認証がこれらのプラットフォームに組み込まれている必要があるのです。
AIエージェント環境では、プロセスの各段階でアクセス制御とコンテキスト評価を行う必要があります。
Google Cloud ビジネスアプリケーション担当副社長兼ゼネラルマネージャー
ラオ・スラパネニ(Rao Surapaneni)
アーロン
今後20年間、IT業界の仕事がなくなることはないでしょう。システムの構成、統合、セキュリティといった課題が山積しており、誰もがそれらを解決していかなければなりません。
相互運用性は、誰もが抱える大きな課題の1つです。インフラ全体にAIエージェントを導入したいのですが、既存のツールはすべてAIエージェントやオーケストレーションレイヤと連携できるのでしょうか? 相互運用性の標準規格は、どの程度整備されているのでしょうか?
ラオ
私の副業の1つは、業界全体の標準化団体と協力して、これらのプラットフォームが実際に相互運用できるようにすることです。当初の私の仮説は、複数のAIエージェントプラットフォームが存在するというものでした。企業がBox、ServiceNow、Workdayを導入する場合、それらは相互運用できる必要があるということです。
従来の方法では、APIアクセスが用いられていました。しかし、AIエージェントを使えば、これらのインターフェースをリアルタイムで検出して、「このデータポイントがありません。共有してもらえますか?」と問い合わせることができます。権限が許せば、そのデータを共有することが可能です。
このように、検出、接続、タスク完了といったランタイム機能を実現できます。しかし、導入という観点から見ると、多くの業界動向が影響してきます。APIは既に存在し、MCPはツールとデータの事実上の標準になりつつあります。AIエージェントに関しても、選択肢は豊富です。私たちが考案したプロトコルの1つに、Agent2Agent(A2A)機能があります。現在、私たちはその開発を進めている段階です。マルチエージェントオーケストレーションソリューションには、さまざまな追加機能が必要です。新しいエージェントはどのように見つけるのか? 目的のタスクを実行できるAIエージェントをどのように選択するのか?ということです。
アーロン
もし水晶玉で今後12~18ヶ月を予測できるとしたら、私たちはどのような状況にあると思いますか? AIモデルやマルチエージェントシステムの進歩は、どの程度でしょうか?
ラオ
そうですね、クエリ理解と自然言語処理はすでに十分に解決された問題です。推論能力は飛躍的に向上しました。だからこそ、長い文書を処理し、たった1つのプロンプトで内容を理解できるようになったのです。次に大きな課題となるのは、記憶です。人間は一日の中で、ほんの一部の重要な出来事しか覚えていません。AIエージェントはこれらの重要な出来事を記憶し、対話をパーソナライズし、時間とともに改善していく必要があります。そのため、私たちは記憶の研究に着手しています。
エンジニアリング面でもう1つ考えているのは、フィードバックループについてです。AIエージェントをインターン生に例えるとわかりやすいでしょう。インターン生が入社すると、多くの業務をこなす必要があり、私たちは彼らに迅速な対応を求めます。そして、週末に、うまくいった点、手助けが必要だった点(つまり、ヒューマンインザループが必要な部分)、そして間違えた点をまとめた報告書を作成します。これは、フィードバックの機会となります。しかし、AIエージェントにフィードバックを与えることで、AIエージェントはナレッジを記憶し、次回同じ状況に直面した際に改善できるでしょうか? フィードバックループを完成させるために、記憶と記憶容量の活用方法を研究する必要があります。そうすることで、AIエージェントはより迅速に業務をこなせるインターン生へと成長し、キャリアアップにつながるでしょう。
アーロン
つまり、要約すると、私たちはAIエージェントに対して、多くの業績評価と1対1の面談を実施することになるということですね。
ラオ
私は、すべての従業員をAIエージェントのマネージャーとして捉えています。
すべての従業員をAIエージェントのマネージャーとして捉えています。
Google Cloud ビジネスアプリケーション担当副社長兼ゼネラルマネージャー
ラオ・スラパネニ(Rao Surapaneni)
アーロン
最後に何かアドバイスはありますか? もし、今日伝えたいことを1つだけ挙げるとしたら、私たちは何を変えるべきでしょうか?
ラオ
AIエージェントを使ってください。たくさん使ってください。そして、フィードバックをください。そうすることで初めて、システムをストレステストし、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかを理解できるのです。テクノロジーはすでに存在します。重要なのは、適切なリスクプロファイルを持つ適切なユースケースに、それをどのように適用するかです。
アーロン
素晴らしいですね。ラオさん、本当にありがとうございました。Google Cloudとのパートナーシップに感謝いたします。
ラオ
ありがとうございました。
このブログは、Box, Inc. 公式ブログ(https://blog.box.com/)2026年4月16日付投稿の翻訳です。
著者: Michael Krantz, Editor in Chief at Box
原文: https://blog.box.com/aaron-levie-and-rao-surapaneni-google-governance-security-and-agent-era
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